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書評 教育を経済学で考える

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教育を経済学で考える 小塩 隆士

教育を経済学で考える

「物事を見る目を養う」ということを学べる本

アメリカのハーバード大学の国際政治学者、ジョセフ・ナイ教授の有名な言葉に「自分たちは理論などにとらわれていないと思っている実務家は、遠い昔の名前すら忘れてしまった三流学者の説に従っているだけのことが多い」というものがあります。これはつまり、政策考案の際に、理論に頼らずに立案したところで、その政策は三流学者が考えそうな愚策となりかねない、ということを言っています。

これはなにも政治の世界に限らず、私たちの生活でも同じことが言えます。ビジネスであったり、人間関係であったり、教育であったり、さまざまな物事に理論と呼べるものがあります。理論とはつまり過去の知識、経験の集積であり、私たちを導く道しるべとなり、私たちが、この世界で起きているさまざまな事象を理解するうえで、重要な物差しとなるのです。

今回紹介する「教育を経済学で考える」は、「経済学」という物差しで「教育」という事象を見たときにどう映るのか、どのような分析が可能であり、どのような視点を私たちに示してくれるのかを、数式や統計を織り交ぜながら解説してくれます。経済学というと難しい気がして、途端に本をとる手が止まりそうですが、そこは一つ思い切って手を伸ばしてみましょう。すばらしい読書体験ができます。

消費する教育!?投資する教育!?経済学からの視点

ちょっとだけ内容の話をしましょう。まず気を引くトピックが、「消費としての教育」「投資としての教育」という話。まずは「消費としての教育」という部分から見てみましょう。

消費としての教育とは

普通、消費するというと、食品やガソリンなどを消費する、という文脈で理解すると思います。すなわち、「消費する」とは、その対象(事象)を消費すること自体が目的であり、例えばりんごやみかんを消費する、食べることで完結する、ということです。

では、教育というものを経済学的視点で見てみると、学習塾やお稽古事、さらには高校や大学進学も、「財を消費する」という文脈で語ることが出来ます。これは、例えば英会話学校に通うのは、英会話を学ぶことそれ自体が目的であり、料理教室では料理を教わることが目的である、といった感じで考えると分かりやすいと思います。このとき、生徒は、学習するということを消費し、また学習することが目的となる、と考えるわけです。

また、消費することには別の側面があり、一つは純粋に消費することが目的であるとき(例:おいしいりんごを食べる)と、消費できる自分を実現すること(例:高価な服を買える自分すごい)に分けることが出来ます。これを「消費としての教育」の文脈で考えた場合、純粋に学習したい(英語を勉強したい)ときと、学習にお金をかけられる自分を実現する(英会話に通う私はすごい)とき、といった具合に考えることが出来ます。

投資としての教育とは

では、「投資としての教育」とは、どういったものでしょうか。「投資する」とは、対象(事象)を購入すること自体が目的ではなく、その対象を購入した結果、お金などの利益を発生させることが目的となります。例えば株式や土地に投資するとは、後々に、買った株や土地の値段が上がり、売却したときに利益が発生することを目的とします。

これが「教育」に対して投資する場合、教育を受けた結果得られるものに期待して、お金を払うことになります。先ほどの英会話教室の文脈で言えば、例えば、英会話を覚えた結果、海外支社への転属が可能になる、といった効果を期待して教室に通う、料理教室なら、料理を覚えた結果、恋人によりおいしい料理を振舞うことが出来る、という効果を期待している、と考えることが出来ます。

「投資としての教育」の側面として、その投資先が必ずしも自分ではない、ということが挙げられます。分かりやすい例が、子どもを熱心に学習塾に通わせる親御さんが考えられます。子どもを学習塾に通わせる、特技を習得させる、という行為は、将来に得られる効果、例えば就職先を選択するときに、より広い選択肢を持つことが出来る、といったものを期待していると言えます。

上記のように、「消費としての教育」「投資としての教育」と考えた場合、多少オーバーラップしている部分がありますが、この二つの視点で学習塾に通う、ということを考えると、普段とは違った見方、理解の仕方ができることがわかります。これは冒頭で書いた、理論を道しるべとした考え方であり、今回の場合、経済学という理論で教育という事象を覗いてみたことになります。

視点を得る、ということ

本書はさらに踏み込んで、ゆとり教育の現状や、そこに通う子どもたちに与える影響などを、経済学で使われる数式を用いて解説したり、経済学ならではの統計が登場したりと、大変興味深い内容となっています。詳しくは読んでいただくとして、ここでは、この本を読むことで得られる読書体験について少し書いてみたいと思います。

冒頭にも書きましたが、理論を道しるべとして物事を考える、ということは、とても有益で価値があることだと思います。自分だけでは見出せない見方、考え方を、過去の偉人賢人その道のプロと呼ばれる人々が築き上げてきた知識、見識を身につけることで、見出す。ただ単に学校でお勉強するのではなく、その道の「学」を学び、修めるのは、そういう意味があると思います。その学んだ道でもって、目の前の問題に取り組む。その流れの一端を、この本を読むことで体験することが出来るのです。

特に大学での学問を念頭に置いて考えれば、それはよくわかります。せっかく大学で最新の学問を学び、学位も取得したのに、その後まったく活かせない。それは経済学を学んだから卒業生全員が経済学者や銀行員になれ、そういう意味ではありません。学問から学んだ考え方を道しるべとし、目の前の問題に取り組む。そういった姿勢が肝要なのだと、私は思います。

さいごに

つらつらと書いてきましたが、ご自分の子どもを塾やお稽古事に通わせようか、何を学ばせようか、と考えている子育て中の親世代の方々に、オススメできる本です。また、大学生ももちろんですが、これから将来どういった勉強をしようか、どの学部を選ぼうか、と考えている高校2~3年生にも、オススメします。学術書、とまではいえませんが、極めてそれに近いレベルの書籍なので、大学ではどういった勉強をするのか、ということを考えながら読むと、とてもよい予行演習になると思います。10年前の本なので、情報がやや古いところもありますが、十分読む価値はありますよ

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著者 小塩 隆士の本書に関する対談

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